
登壇者紹介
坂井風太(さかい・ふうた)|株式会社Momentor 代表取締役
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)へ新卒入社。その後、子会社の代表取締役などを経験。同時にDeNAの人材育成責任者として、同社の人材育成プログラムを開発。2022年にDeNAとデライト・ベンチャーズ(Delight Ventures)から出資を受け、人材育成・組織強化をサポートする株式会社Momentorを設立。
公式サイト:https://momentor.co.jp/
山本 弘明(やまもと・ひろあき)|株式会社Maenomery 取締役副社長兼COO
HR領域のベンチャー企業を経て、2018年8月に株式会社Maenomeryを共同創業。取締役副社長として経営戦略や組織設計、ファイナンスなど幅広い領域を担当。同社では、年間5,000名以上の体育会人材の就職支援を行う。その他の活動としては、情報経営イノベーション専門職大学 客員准教授、立正大学特別講師(キャリア・デザイン入門)、立正大学経営学部特別講師(管理会計I)も務める。
公式サイト:https://maenomery.jp/
はじめに
「GRIT(やり抜く力)」──ビジネスの現場でこの言葉が再度注目集める中、その力を“実体験”として持つ存在として、体育会系出身者が再評価されています。
本記事では、GRIT人材を企業へ届ける株式会社マエノメリの山本と、組織開発のスペシャリストでもある坂井氏との対談を通じて、体育会人材がなぜ今求められているのか、また彼らがもたらす組織への変化について深掘りします。
GRIT人材に注目する理由
――「やり切る力」が組織を変える“なぜ今GRIT人材なのか”――
山本:マエノメリでは、スポーツに本気で取り組んでいた人材、いわゆる体育会人材なのですが、その中でも、やり抜く力のある“GRIT人材”の可能性に注目しています。というのも、ビジネスの現場って今や“正解のない問い”ばかりじゃないですか。そんな環境で成果を出すには、試行錯誤してでも「最後までやり切る力」が必要不可欠だと思っています。
坂井:まさに生成AIの登場で一気に変わっちゃったと思うんですよ。それまでは、物事を論理的に構造分解する能力が重視されていたのですが、率直に言って、その点に関してはChatGPTの方が優れていると感じる瞬間もあります。実際、ChatGPTと対話するときに求められるのは、「これって本当に正しいのか?」「自分の考えは妥当だろうか?」といった問いを、試行錯誤を繰り返して何度も粘り強く投げかけられるような、いわば“知的グリット”のような姿勢だと思うんです。もはや、ロジックツリーを完璧に作れる能力自体には、以前ほどの価値は感じませんね。
山本:まさにそうだと感じています。そしてそのような“GRIT(グリット)”=「やり抜く力」をもつ人材は、体育会学生や何か一つの事に本気で取り組んできた学生に多いと感じます。体育会学生全員がグリットを高水準で持ち合わせているわけではないですが、グリットが高い人材は、競技実績が高いといった研究もあります。
体育会人材採用の落とし穴。「競技実績=離職しない」という幻想
坂井:大谷翔平さんはその事例のど真ん中ですよね。「お酒飲むより、試合に勝った方が楽しくないですか?」を当たり前に言えるのって、ブレずに自分の信じたものをやり抜く力そのものだと思います。
そういう意味でも、やはり体育会出身者の最大の特徴は、「実行強度」が段違いなところですね。誰よりも早く動いて、確実にやり切る。あのスタンスが伝播すると、組織に「やりきる」空気が生まれる。GRIT人材が1人いるだけで、周囲が“ぬるく”なれなくなる。この実行強度こそが、組織にとって大きな資産になる。
山本:スポーツという経験を通して、グリットを培ってきた最大の好事例のひとつですよね。ただ大学や部活によって異なるのですが、体育会集団に所属するという閉鎖的環境が仇になる危険性も感じています。とくに部活動しかしない、他の環境には可能な限り干渉しないというような状況ですね。スポーツ空間論では「クラブ内オフザピッチ」と表現されたりもしますが、その限定的な環境の中にあまりにも居続けてしまうと自身の世界が狭小となり、社会との距離が広がってしまいます。
坂井さんは前職を含めて多くの体育会人材と面接をしたと思うのですが、坂井さんからみる体育会人材はどのように映っていましたか?
“良い体育会”と“微妙な体育会”の違いとは何か
体育会出身=優秀、ではない?──「本質的に考える力」のある人材とは
坂井:これなあ・・・二元論で分けるのは良くないのですが、やっぱり“良い体育会”と“微妙な体育会”っていると思っています。体育会系人材は生きる力が強いけど、ただ言われたことだけを信じて疑わずに動くと、天井が見えちゃうんですよね。専門用語で言えば「権威主義的パーソナリティー」。一方で、理不尽や違和感をちゃんと放置せず、自分で考え抜く力がある体育会系の人もいて、そういう人はすごくいい。自分のために、本当に正しいかを考えた上でやり切る。そういう人が「良い体育会」なんだと思います。
山本:今となっては、両方の気持ちがよく理解できます(笑)。私自身も体育会出身ですが、「言われたことだけを忠実にこなせばいい」という環境は、実のところ、当事者にとっては非常に気楽なんですよね。ただ、その結果として、「勝利を目指してプレーしていたはずが、いつの間にか叱責を回避するために動いている」というような本末転倒の現象が起きることもあります。しかし、本来の目的はあくまでも“試合に勝つこと”であり、怒られないことではありません。
また、「上からの指示は絶対」といった権威主義的な風土に染まり過ぎてしまうと良い部分もある反面、思考停止に陥り、個の成長が頭打ちになりますよね。実際、営業職で圧倒的な成果を挙げていた体育会出身者が、マネジメントに就いた途端にパフォーマンスが伸び悩む——そんな事例は、現場でもよく耳にします。
坂井:仕事って「事に仕える」と書いて「仕事」ですよね。別に「人に仕える」ものではないですよね。だから経営層やマネージャーに仕えるのではなく、経営層やマネージャーが成し遂げようとしている「事」に従う。その目的が会社の進む方向と間違っていれば、議論する必要がありますよね。それがないと、明らかに市場に反する行為も盲目的に認めてしまうし、組織不正も起こりやすくなります。
「やる」と決めたことを突っ走るのと、「このレール、そもそも正しいのか?」と考えることはセットで必要。そうでないと組織は歪んでいく。
山本:権威主義的パーソナリティーの側面があると、権威に対しては無批判志向となり盲目的に信じてしまいますよね。そして自身たちの内集団とは異なる、外集団からの意見には批判的な態度になってしまう。
あとは経営層やマネージャー側も気を付ける必要があるように思います。権威主義的パーソナリティの側面が強い部下だと、あらゆることに盲目的に信じてくれるので“説明コスト”がなくて済むんですよね。“説明コスト“が少ないこと自体は良いことだと個人的には思いますが、自身の目指している方向が適切なのかを常に問いながら、マネジメントしていく必要があるように感じます。
見極めの視点:「自己決定の履歴」があるか
指示待ちではなく、“自分の問い”で動けるか──体育会人材を見抜く鍵
坂井:そういった意味でも、マエノメリさんはこれまで多くの体育会系人材をサポートされていると思うのですが、どのように見極めていましたか?
山本:様々な要素があるのですが、主に私たちが着目しているのは、「自己決定の履歴があるかどうか」。ここに大きな分岐点があるように感じています。体育会という上限関係が強く権威主義になりがちな環境は、社会的判断力を強制的に喪失してしまう傾向にあります。そこに対して盲目的になるのではなく、自身で本当に何が正しいのかを考えて意思決定をした、という経験を持ち合わせていることが重要だと思います。
坂井:「誰かに言われたからやりました」っていう人と、「自分で選んだ」「自分で問いを立てた」っていう人では、成長角度が全然違いますよね。体育会集団から企業に所属するという新しい環境に変わった時に、「自分で考えて動けるか」が問われますよね。
山本:あとは部活動や競技自体に対してどのように取り組んだか、は重要に思います。部活をただの就活で勝つための道具として捉えているようなコスパ思考だと、仕事でつらい瞬間にぶつかったときに、乗り越えていけないのでは。と思ったりもします。
坂井:まさにで、少し話はズレますが、私はコスパ主義があまり好きではなくて(笑)
なぜかと最近考えたのですが、本当に自身を変えなければならない事とか瞬間って、正直コスパが悪い。精神的にザラつくし、恥ずかしいし、最初は非効率なんです。でも、そこで諦めずに「コスパ悪くて当たり前」と乗り越える人と、そうでない人で差がつく。
前職でも、小説投稿サービス運営しているときだったのですが、小説を書くことって本当に大変だったんです。なので内部の運営メンバーは小説を殆ど書かないし、基本的に企画からも外す。ここに大きな問題があると感じて、私は毎日小説書いて投稿しましたね(笑)ただ、そのお陰でサービスに対する理解度が誰よりも圧倒的に深くなりました。
その経験もあり、だいたい皆コスパの谷で逃げるので、そこを根性で捲ったら勝てる!ということを実体験として持ち合わせる事ができましたね。
山本:本気で部活等の何かに取り組んだ経験などは、そのコスパの谷を越える原体験獲得に近いですよね。一方で、その馬力を持ち合わせているかどうか、を坂井さんが見極めるとしたら、どのように見極めますか?
坂井:そうですね。一番困難なときに、どのように資源を使って自身を立ち直らせているか、復活の呪文や鼓舞パターンがなにか。努力の粘り強さで困難を跳ね返した過去の記憶を持ち合わせているか。ここを見極めることが重要だと思います。
私の場合は父が自己破産をしたこともあり、当時は本当に大変な思いをした記憶があります。なので、あの時に比べると今のつらいことなんて、まあどうでもいいか。と単純に思えてしまう。
だから前職でM&Aを行っていた時も、小説投稿サービスの運営で辛いときも乗り越えることができた。
山本:まさに長期目標に対しても粘り強くやり抜く力“GRIT”ですね。
GRIT人材がもたらす組織的な変化
動き出す組織、育つ信頼─体育会人材がつくる“前のめりな空気”―
坂井:あとは手前味噌ですが、“コスパが悪いけど事業にとって必要なこと”を自身が率先して行動したことによって、周りも“やらないと・・・”という雰囲気は作れたと思います。
小説投稿サービスを運営していたときは“坂井も小説を書いてるし、自分たちも逃げずにやらないとなあ”という雰囲気や新しい基準を作れました。
この個人のグリットが組織GRIT【組織全体としてやり抜く力】に昇華していくことがGRIT人材の真の価値なのではと捉えています。
そういった意味でも、GRIT人材が1人いるだけで、組織GRITは格段に向上すると思います。ただ、1人だと辛いので、マエノメリさんからの紹介で2人くらい採用すると会社を変えれるだろうと思いました。
山本:私も多くのクライアントでGRIT人材が活躍する事例を見てきたのですが、よく話で聞くのは“行動の基準値が上がった”や“すぐやる”という風土ができたというお話ですね。
まさに組織のグリット力が向上したという事例ですよね。
組織の中に居座り続けると、現在の基準が当たり前になってしまうので、GRIT人材という外からの刺激を使用して、行動の基準を変革していく。事業成長の戦略の一つとして、採用という側面からGRIT人材を注入していくことは非常に効果的だと思います。
坂井:マエノメリさんへの研修を通して感じたのは、マエノメリさん自体も組織GRITが強いということでした。研修後にも必ずその日のうちに、全体で振り返りを行いレポートを送ってくる。この“組織としてすぐやる”という事が当たり前になっている。
あとは相互感謝の文化が根付いていることですね。相手の感謝に対して、「逆にあなたのおかげです!」とすぐ返せる。これは組織効力の表れで相手が貢献している部分とか強みとかを日ごろ観察していないと現れません。高い目標、感謝や貢献を自然に言葉にする文化が育つと、組織効力感も高まる。
山本:「自分たちならできる」っていう感覚が、チームの中に芽生えるんですよね。不確実な状況でも、折れない組織、折れそうになっても復活できる組織がつくられていく。
坂井:逃げづに、やると決めたことを即日やる、不器用でもやり切る。だから皆GRIT人材を採用したほうが良いですね。
まさに、「復活の再現性」と「自己決定の履歴」そして「リスペクトの姿勢」この3つが揃ったGRIT人材こそ、変革フェーズにおけるキーパーソンだと思います。
まとめ
良質なGRIT人材が組織に加わることで、目に見えて変わるのが「行動の文化」です。誰かの指示を待つのではなく、自ら考え、すぐに動き、やり切る。 その実行力の高さは、組織全体の“やる気の水位”を押し上げます。また、「環境に感謝する」「周囲の貢献を認識する」姿勢は、*組織効力感の醸成にもつながります。「自分たちならできる」という感覚がチーム内に芽生えることで、不確実な状況にも折れない組織が生まれます。
「復活の再現性」、「自己決定の履歴」、「リスペクトの姿勢」 これらを兼ね備えたGRIT人材こそ、これからの変革フェーズにおいて、最も価値のある存在なのかもしれません。Maenomeryは、GRIT人材をセミナーや面談を通して“見極め”、“育成し”企業へ紹介しています。これからの時代、変化の激しい環境において本当に価値を持つのは、「指示待ちではなく、自ら問いを立てて動ける人材」。そしてその一人が、周囲の空気すら変えていく起点になるのではないでしょうか。
※組織効力感は株式会社Momentorの商標となります。


