上場企業D&I代表が語る「GRIT人材」が未来を創る理由~やり抜く力が市場を創造する~
障害者雇用という新しい市場をどのように創造したのか。そこには明確な理念ドリブンによる文化構築と採用戦略がありました。
市場なき世界に挑んだからこその苦悩とリアルな成長過程を本記事を通してお伝えできればと思います。

インタビュー対象者 プロフィール
小林鉄郎(Kobayashi Tetsuro)
代表取締役
1985年生まれ。石川県金沢市出身。
2007年新卒で株式会社ジェイブレインへ入社。新規事業として障害者雇用支援事業立ち上げに携わる。2009年代表杉本とともに株式会社D&I創業、取締役就任。全事業を統括。2021年6月、代表取締役に就任。

1. 市場なき世界への挑戦こそ、D&Iらしい
――創業当時どのような思いで事業を始められたのでしょうか?――
当時は制度や法整備はあったものの、実際の現場で障害のある方が活躍できる環境は、まだまだ足りませんでした。そのため多くの企業が法定雇用率を政府が課した義務として、障害者を雇用していました。そこに違和感をもっていたこともあり私たちは「義務として雇用の場をつくる」のではなく、「戦力として活躍できる環境を創りたい」という想いからスタートしました。
――スタート当時の市場の反応はいかがでしたか?――
当時は市場そのものがない状態でした。参考にできる事例も殆どない中での挑戦でもあり、不安もありました。ただ、「障害者雇用を義務から戦力にしたい」という信念が創業者の杉本(故人)含めて強くあったので、未知の領域にも足を踏み入れることができました。
――市場創造における具体的な難しさは何でしたか?――
事例がないからこそ、長い時間をかけて啓蒙や説明をする時間が必要でした。興味を引くという意味では、目新しさがあったので話を聞いてくれるということはありました。しかしながら、いざサービスの導入となると一気に足が重くなる印象が残っています。法の制度として障害者雇用は必要である、しかしながらサービスは導入しない。このジレンマにとても悩まされました。
――興味はあるけど、導入してくれない。このジレンマをどのように乗り越えたのでしょうか?――
結局のところは何度もクライアント先に足を運んで、重要性と社会的な意義を伝え続ける。これが何より大きな要因だったと思います。もちろん法定雇用率の改正など社会としての後押しもありました。しかし、市場創造において本質的に重要なのは、外部環境への期待ではなく、自分たちがコントロールできることへリソースをつぎ込むことです。だからこそ困難は当然のこととして受け止めていましたし、直ぐに上手くいくとも思っていませんでした。
未来を描くことと、希望的観測を混同しないことが重要だと思います。

2. 市場創造フェーズにおける採用戦略:GRIT人材への着目
――市場創造に挑む中で、どのような人材を求めていたのでしょうか?――
一番は「困難や変化の激しい環境でも自ら考えてやり抜ける人」まさにGRIT人材です。スキルや経験の有無よりも、困難を乗り越える粘り強さや、最後までやり抜く力を重視しています。なぜなら弊社が挑んでいるのは不確実性が高く、変化の激しい市場創造だからです。
とくに障害者雇用における法改正やルールは定期的にアップデートされます。
そのため変化を前提として事業に取り組む姿勢が必要となります。だからこそ、決まったレールを走るのではなく、自らレールを敷いて進んでいくことが必要となります。そのため単に仕事をこなすだけではなく、事業全体を前進させる人材を常に採用することを心がけました。
また、上記の特性に加え、個ではなくチームでどのように成果を上げるかに没頭できる人材も重要です。弊社では、障害のある方々の入社からオンボーディング、そして戦力化までの支援を一気通貫で行っています。各チームがバリューを発揮しているからこそ、D&Iを利用する価値が最大化されています。最大の価値提供は、圧倒的な個人ではなくチームワークによって創出されるものと考えております。そのためにも、会社が目指す目的や理念に共感し社会性を持って取り組める人材が重要となります。
3. 活躍事例:最後までやり抜くGRIT人材
――実際に入社したGRIT人材の事例があれば教えてください。――
22卒で入社の大滝が、現在活躍してくれています。
彼はとにかく当時から「素直に物事を受け取れる人材」でした。業務などのフィードバックに対しても、気持ちよく受け取ってくれる。「打って響く」というのはまさに彼のことなのかなと。そして、指摘に対しては、自らの成長の糧に変えていました。とくに改善すべき箇所や伸びしろをそのまま放置するのではなく、修正できるまで徹底するという「やり抜く姿勢」がとても印象的です。そのため、顧客に対しても細かい部分まで丁寧にフォローし、相手が納得するまで伴走していくスタイルが結果に繋がっているように感じます。
また教えられ上手ということは、先輩からも可愛がられる存在です。その特性もあり、顧客の懐に大胆に踏み込み距離を近づけることができるのも彼の特徴です。
22卒 大滝さん
――「打って響く」とても重要ですよね。最近はどのような活躍をされていますか?――
最近では、事業成長を牽引してもらうためポジション変更しました。しかし、その環境変化も難なくこなし、短期間で成果を上げてくれました。さらに凄いのがサッカーの上位リーグで活躍しながら、残業をほとんどせずにMVPを獲得するなど、働き方の面でも新しいロールモデルを体現しています。
―他の社員も採用されていますが、GRIT力がある人材に共通して言えることはありますか――
経営層や上司が考えていることに対しての感度が非常に高いところです。具体的に言うと、新しいサービスを始めたり、方針が提示された際にただそれを受け取るのではなく、当事者として自分事にできる。尚且つ、自身の考えを持って方針を実行し、やり抜く。ここが共通している点ですね。
前途でも述べましたが、弊社は障害者雇用を一気通貫で支援し、テクノロジーを駆使して戦力化まで実現することを強みとしています。そのためサービス範囲が広いだけでなく、新たなサービスを生み出し続ける必要があります。そのようなスピードや変化が激しい状況の中においても、圧倒的な当事者として業務に励んでいる姿勢が見受けられます。

4. 市場創造においての組織設計:理想と約束は双方向で明文化する。
―― 市場創造のための組織作りにおいて具体的には、どのような体制や工夫をされているのでしょうか?――
会社が目指すべき姿(理念、スピリット)と、会社が提供すること(プロミス)を明文化することです。
会社が大切にしているのは、社員に対して一方的に成果を求めることではなく、理念や約束を「双方向」から考慮し提示する姿勢です。
――具体的にはどのようなことなのでしょうか?――
まず、D&IのMissionやVisionはもちろんある中、社員に求める考え方や行動の軸として「スピリット」を構築しました。これは、組織が成長していく過程で「D&Iらしさとは何か」を問い直し、単なるスローガンではなく実際に行動につながるように設計されたものです。さらに「義務から戦力へ、人生の選択肢を」というバリューを掲げました。これは個々人が仕事を通じてどのような価値を提供しているのかを明確にし、主体性を発揮し、長期的に成長していけるような方向性を示しました。
その後、私が代表に就任したタイミングで、“働くを通して、幸せを”という「D&I Promise」を策定しました。これは私の想いでもあるのですが、やはり会社が社員に求めるだけではなく、会社としても社員に対してどのような約束を果たすのかを示したいと思ったからです。
――「D&I Promise」への想いを教えてください。――
まず前提として、社員全員と24時間365日を共にすることは、実質不可能であると考えています。どうしても一緒にいる時間は限られます。そのため社員一人ひとりの人生全体を保証することはできません。しかし、だからこそ働いている時間は仕事を通じて幸せを感じてもらえるようにしたいと思っています。そのため「D&I Promise」には会社として全力でコミットする、という意思が込められています。この約束をつくる過程では、「意志」「挑戦」「成長」といったキーワードが重視され、経営陣と人事部門が時間をかけて議論し、磨き上げてきました。
つまり、社員に対しては「スピリット」で“どうあってほしいか”を示し、会社としては「Promise」で“どう支えるか”を明確にしたのです。目指すべき姿と約束の両輪を明文化することによって、単なる上下関係ではなく、社員と会社が対等に信頼関係を築きながら進んでいく文化が形づくられています。

5. 今後の展望:専門性×テクノロジーで、障害者雇用におけるインフラカンパニーへ
――今後の事業展望を教えてください。――
海外と比較しても、この領域は依然として市場創造の途上にあり、未だ成熟には至っていません。今後、日本における障害者雇用の法定雇用率はさらに上昇する見込みであり、企業が直面する課題はますます複雑かつ多様化していくと考えられます。しかしながら、障害者雇用に関するノウハウや実績は十分に整備されているとは言えず、社会全体において大きな課題が残されています。こうした状況下において、当社はこれまで培ってきた経験や知見を基盤に、AIやクラウドをはじめとした先端テクノロジーを駆使しながら新たな解決策を提供しています。
特に、入社前から入社後までの包括的なサポートに加え、在宅雇用支援プラットフォーム「エンカク」を通じ、場所や環境に制約されず、一人ひとりが戦力として活躍できる環境があります。またベンチャー企業からナショナルクライアントに至るまで幅広く対応できるリソースとノウハウを有している点も、当社の強みです。
その強みを生かし、今後は更に障害者雇用における上流コンサルティングへも注力をする予定です。特例子会社の設立支援や、評価制度の設計、部門間を横断しての雇用環境構築等も含めてオールインクルーシブで、支援できる体制を更に強化してまいります。
私たちは、単にテクノロジーを導入するのではなく、人と人とをつなぎ、心の通った支援を届けることを大切にしています。まだ挑戦の余地は残されていますが、広範囲を高品質にカバーしつつ、先端技術を活用することで、よりシンプルに、そしてより温かく社会課題の解決を推進したいと思います。
導入事例↓
【障害者雇用事例】パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社様 | 株式会社D&I(ディーアンドアイ) | 【東証上場】 障害者雇用・教育のインフラカンパニー
後記:GRIT人材は挑戦を支える経営戦略
―― Maenomery視点での再定義と読者へのメッセージ――
今回の取材を通じて、GRIT人材は企業の持続的成長を支える経営戦略そのものであることを、あらためて強く感じました。特にD&I様の事例は、「市場なき世界」に挑むときに、どのような人材が必要で、どのように組織文化を醸成するかという根本的な問いに対して、明確な示唆を与えてくれます。
市場創造とは、不確実性の極めて高い領域に踏み出すことを意味します。そこには成功の型や前例はなく、常に手探りで進まざるを得ません。困難や失敗はむしろ日常であり、その度に立ち上がり、何度でも復活することが求められます。だからこそ、市場創造の現場には「学び続ける柔軟性」を備えた人材が不可欠です。すなわち、素直にフィードバックを受け取り、自らの成長に転換できる“教えられ上手”であること。そして、挑戦を「自分ごと」としてとらえ、当事者意識を持って最後まで「やり抜く=GRIT」こと。これらの資質が、未知の市場を切り拓くための最大の推進力になります。
GRIT人材はまさに、その資質を体現しています。不確実な環境においても挑戦をやめず、粘り強くやり抜く力で組織を前進させていく。その姿勢は周囲の意欲を喚起し、組織全体に挑戦の文化を浸透させます。そして、挑戦と失敗を繰り返す中で何度でも立ち上がるその姿こそが、変化の激しい時代に揺るがぬ組織の強さを形づくるのです。
読者の皆様におかれましても、自社における「GRIT人材」の可能性を改めて考えていただきたいと願います。それは特別な業界や一部の先進企業に限られたものではなく、あらゆる組織が未来を切り拓く上で必要とされる普遍的な力であると、私たちは考えています。