AI時代こそ「GRIT」で勝つ。プライム上場企業の組織再建とGRIT人材の活用
プロフィール
吉山 啓輔 (Yoshiyama Keisuke)
株式会社ブイキューブ 営業本部 本部長
2013年新卒入社。2023年1月に営業本部長就任。
事業内容
「Evenな社会の実現」を掲げ、ビジネスイベントの企画運営や、Web会議システムなどのコミュニケーションツールの提供、防音個室ブース「テレキューブ」など、ハード・ソフト両面から働き方のDXを推進する。
次世代リーダーが直面した「組織崩壊」と「行動基準の壁」
ブイキューブ社は、コロナ禍による特需により、一時は500名規模まで急拡大しました。
しかし、社会のオフライン回帰とともに業績は停滞し、「組織を300名規模へ縮小する」という苦渋の決断を下しました。
さらに現場では、希望退職をきっかけとした「離職連鎖」や、コロナ禍で受動的な営業スタイルが定着してしまった結果として「行動量の圧倒的不足」という深刻な課題も突きつけられました。
しかし、この逆境こそが技術偏重の組織から「行動を第一原則とする組織」へと生まれ変わる転換点でした。 なぜ、組織は縮小しても「強さ」を取り戻せたのか? AIが台頭する今だからこそ見直すべき、「行動量」そして「最後までやり抜く力="GRIT”」を核とした組織再建のプロセスを語ります。

1. 離職の連鎖:組織縮小で突きつけられた「成長環境」の欠如
―数年前の大規模な組織変更の際、現場では何が起きていたのでしょうか?
2021年のコロナ禍ピーク時、市場環境の後押しもありオンラインセミナーの需要拡大で弊社のイベントDX事業は急成長しました。しかし、2023年のオフライン回帰という市場変化に伴い、拡大し続けたイベントDX事業の再考を迫られました。
そこで、なんとか事業を存続させるため、毎日死に物狂いで奔走しました。しかし、どうしても抗いきれず、最後は希望退職者を募ることに踏み切りました。まさに断腸の想いでの意思決定でした。
しかし経営陣として、その想いと同等に重く受け止めたのは、その後に起きた「想定外の退職連鎖」でした。
組織の中核が流出する「本当の理由」
募っていた希望退職者だけでなく、「それなら私も」と、これからの組織を背負うはずの30代前後のメンバーが次々と去っていったのです。彼らが口を揃えて伝えてくれた理由は「基礎から営業を学び直したい」というものでした。その発言の意図は、「この組織にいても、圧倒的な行動量に伴う原体験(スキル)の獲得ができない」という組織の現状そのものを映し出す言葉でした。
20代という重要な時期に、「困難を乗り越えて成長できた、もっと成長できそう」と言える原体験(自信)やキャリア成長の希望を、組織として提供できていなかった。それこそが、組織の根本課題であり抜本的な改革が必要でした。
2. 再建の壁:「1日1件」という行動量が突き付けた現実
―抜本的な改革を始めたスタート時、具体的にどのような課題に直面しましたか?
まずは売上回復に向け、「顧客接点(商談件数)を増やす」ことを最優先KPIに掲げました。 当時は恥ずかしながら、コロナ禍で受動的な営業スタイルが定着してしまい、商談件数の集計もしていない状況でした。しかし、可視化されたデータを見て愕然としました。
- 理想の活動量: 1人あたり1日2件のアポイント
- 現実の活動量: 1人あたり1日平均「1件」のアポイント
業績回復を語る以前の問題で、大前提として「1人が1日1件しか動いていない」という、組織としての「行動基準値の低さ」を打開せねばならないという壁があったのです。 「お客様のために汗をかく」という文化が軽薄化してしまった状態では、売上はもとより事業価値をお届けすることもできません。
私たちは、営業組織としての「当たり前の基準(スタンダード)」を根本から作り直す必要がありました。
3. 採用基準の刷新:スキルよりも「0秒でアクションできるか」
―その状況を打破するために、どのような手を打たれたのでしょうか。
小手先の改善ではなく、「採用要件(人選びの基準)」を根本から変える決断をしました。 ビジネス経験やスキルの有無は一切問いません。その代わりに重視したのは、以下の1点のみです。
「素直で、明るく、とにかくアクションを起こせるか」
今の組織に必要なのは、即戦力のスキルではありません。「行動量が足りない」という事実に対して、お客様のためにとにかく明るく動くという、シンプルですがその圧倒的なエネルギーが非常に重要なのです。
その突破口を模索する中で出会ったのが、Maenomery社の紹介サービスでした。彼らは、履歴書には表れない「最後までやり抜く力=“GRIT”」という心理的特性を、学術的アプローチから論理的に見極めていました。 私としても、これは単なる採用費ではなく、停滞した組織風土を変革するための「投資」であると確信し、導入を決めました。
GRITとは?→(https://www.maenomery.jp/article/5)
4. 組織への波及:GRIT人材が起こした「ポジティブな風土連鎖」
―実際に「GRIT人材」が入社して、組織はどう変わりましたか?
象徴的なのは、中途入社した權藤(ゴンドウ)さんの活躍です。 彼は現在、営業マネージャーが「絶対に落としたい」と狙う重要案件(キーディール)を次々と獲得し、全社の受注速報を連日のように賑わせています。
「量」が「質」へ転化するプロセス
特に彼の卓越した素養としては、圧倒的な「素直さ」があります。分からないことは聞き、フィードバックを即座に実行し、失敗を恐れずに打席に立ち続けていました。 その泥臭い「行動量(数)」が、やがて「質の高い案件」に当たる確率へと変わっていったのです。最初はもちろん成果はでませんが、成果が出るまでやり抜く、やり続ける。まさにGRIT人材でした。
この成果が可視化されたことの影響は絶大でした。 「経験がなくても、圧倒的に動けば重要案件は獲れる」。この事実が証明されたことで、ベテラン・若手を問わず「まずは泥臭く動こう」というポジティブな風土が各チームで醸成され、組織全体の行動基準が明らかに引き上がりました。
權藤 様
5. 成功の再現性:ポテンシャルを成果に変える「データ育成」
―GRIT人材をマネジメントする上で、注意すべき点はありますか?
彼らの熱量を空回りさせないために、「育成の規律」が必要です。
1. 「知らなくて当たり前」のスタンス
彼らの多くは、スポーツなどの特定分野では一流でも、ビジネスの「型」を知りません。 「なぜ名刺交換ができないのか」と責めるのではなく、「誰も教えていないのだから当然」という前提に立ち、入社直後にビジネスマナーや基礎スキルを確実にインストールする期間を設けることが不可欠です。
2. 精神論ではなく「データ」で導く
彼らは「頑張る力」は持っていますが、「どこに向けて頑張るか」の方向性を最初に示す必要があります。「もっと気合いを入れろ」といった抽象的な指示ではなく、「アポ率は高いが商談化率が低い。だからここを修正しよう」と、プロセスを数字で可視化して伝えることが重要です。 論理的なデータさえ示せば、彼らは持ち前の実行力で自ら壁を突破していきます。

6. 今後の展望:AI時代だからこそ「会える人」が勝つ
―最後に、今後の組織戦略とメッセージをお願いします。
AIの進化により、分析や資料作成といった業務は機械に代替されていくでしょう。だからこそ、私は「自分の足で動き、お客様に会いに行ける人」の価値は劇的に高まると確信しています。
「あなただから話すけど…」という本音や、現場の一次情報。これらを引き出す関係性は人間にしか築けませんし、その情報こそが次のビジネスを創る最大の資産となります。 どこまで時代が進んでも、私たちはお客様に価値を届けるために、会いに行くことをやめません。
そのために必要なのは、失敗を恐れず打席に立ち続ける「GRIT(やり抜く力)」です。この力を持つ人材こそが、AI時代の最強の競争力になると信じています。

