“組織グリット”を2ランク上げるリーダーの特徴3つ-変革型リーダーシップ理論からの考察
1.本文リード
なぜ、あの現場リーダーの下では「結果が出そう・雰囲気がいい・やりきってくれそう」なのに、別のチームは「暗い・勝てそう感が見えない・グルーブ感ゼロ」なのか。
会議中からも感じる空気の差──ピッチに立つ前から“勝てそう”と可能性を感じさせる一体感と、開始前から萎縮したような停滞感。両者を分けるのは、個々の才能よりも 組織グリット――《組織として長期目標をやり抜く力》だったのかもしれません。
では、その“やり抜く集団”はどう育つのか。多様な視点の中で今回は、変革型リーダーシップ 理論(トランスフォーメーショナルリーダーシップ)を中心とした視点から考察したいと思います。
2.変革的リーダーシップとは
Bass(1985) はリーダーシップを① 取引型(トランザクショナル)と② 変革型(トランスフォーメーショナル)に大別しました。取引型は目標・成果・報酬を明示し、対価としてメンバーの行動を引き出す「等価交換」という原則に立脚します。しかし,実際の業務において必ずしもメンバーは、等価交換の原則にたった合理的な意思決定だけに基づいて行動していません。特に,大きな成果をあげているメンバーは、合理的意思決定では説明できない強い貢献意欲を持ち合わせています。変革型リーダーシップ理論では、このような合理的意思決定を超えた貢献意欲を引き出すリーダーシップという概念で捉えています。(石川2009)
上記から、本稿では変革型リーダーの定義を「合理的意思決定を超えた貢献意欲を引き出すリーダー」とします。
3.組織グリットを爆発的に上げている変革型リーダーの特徴3つ
特徴①
――「支援的であり、尚且つハイスタンダートな要求をする」――
近年、コンプライアンス意識の高まりから、厳格な目標設定や高い要求水準が「ハラスメント予備軍」と誤認されることを恐れ、リーダー自ら基準を引き下げてしまう場面が散見されます。そうした風潮においても、変革型リーダーは迎合せず、あくまで妥協なき高基準を掲げ、組織の成長を牽引します。そして、何よりの特徴は、そのハイスタンダートな要求を一緒に実現しようとしていることです。
多くの職場では、ただハードルだけを突き付けて「後は自分でなんとかしてね?」と部下を放置する旧態依然のマネジメントが横行し、無力感と疎外感を助長しています。一方、変革的リーダーはストレッチ目標を掲げつつ、障害を取り払い、知識・リソース・メンタリングを惜しみなく提供する伴走者です。一歩先を照らしながら共に走ることで「自分たちは、まだやれる」という*組織グリットを獲得し、これまで手が届かなかった成果への努力を粘り強く継続できます。支援と高要求が重なる瞬間、メンバーの感情はポジティブな緊張に揺さぶられ、挑戦が歓びへと転化します。それこそが組織の成長曲線を跳ね上げる最大のレバレッジになるようです。

特徴②
――「生じた変化に意味を与える,エモーショナルデザイナー」――
Plowmanらは、組織変革を「連続的創発プロセス」と位置づけています。
つまり組織変革は、各メンバーや部門の相互作用から小さな変化が生まれ、そのダイナミズムから変化が増幅することにより変革していくとのことです。(Plowman et al., 2007)
そしてその変革の条件として下記2つを挙げています。
①組織が不安定領域に入る
②リーダーが変革を“起こす”のではなく、既に起きた揺らぎに意味を付与しビジョンへ接続する
ここでは②の視点に注目したいと思います。
実際の事業活動はエラーの連続です。業務オペレーションや承認フローが少し変化するだけで、小さな問題が幾度となく発生します(顕在的にも潜在的にも)。
変革的リーダーはそれらを汲み取り「このエラーは会社のパーパスや理念を実現することに紐づく」と、発生する問題や変化に対する解釈を、組織の上位概念と統合し意味付けをします。
その意味付けが共有されれば、小さな行動変容がパーパスや理念に紐づき連鎖していく、というメカニズムとなります。
変革型リーダーは、変革の引き金を自ら引く(ラディカルな意思決定をする )のではなく、生じた変化に意味を与えて変革を推進していきます。
重要なのは、日々発生する小さな問題やジレンマすらも上位概念の目標に紐づけ、組織と個人を統合するまさにエモーショナルデザイナーとなることです。ハイコンテクストと現場の実態を横断できるリーダーこそ、まさに組織グリットを2ランク上げる特徴の一つと言えます。
特徴③
――オペレーショナルな仕事へも手触り感を残す。――
株式会社は一般的に、利潤の追求と株主還元を目的とします。それらを実現するためには合理性と効率性が重視されます。結果として、業務はオペレーショナル化が進み、「標準化」による効率的な職務モデルの構築が成長戦略のカギとなります。しかしこの過程で課題となるのが、従業員の動機づけです。高度にルーティン化された職務は、単調さや退屈さを助長し、内発的モチベーションを損なう恐れがあります。この課題を解決するのが、組織グリットを2ランク上げるリーダーの特徴です。
ここで少し論点をずらしますが、業務の効率化が加速する中で、なぜなお人間の関与が不可欠なのでしょうか。それは現時点では、機械やテクノロジーでは完全に代替えできないからです。(技術的制約だけでなく、コスト構造やソフト面等も含めて)
定型的なタスクであれば低コストかつ迅速に自動化が可能ですが、業務の規模が拡大し、複雑性が増すほどに技術導入のハードルや初期投資は爆発的に増加します。
つまり、別の角度から見ると、より構造的に複雑かつ非定型な業務領域が残るということになります。この複雑性を乗りこなすためには、より深い技術や専門的スキルを磨く必要があります。
ここに「手触り感」の余白が隠れています。
Daniel Southwick(2021)は様々な先行研究を引用しながら、説明しています。
“従業員のモチベーションを持続的に高める鍵は、特定領域におけるスキルの深化にあります。専門性の高いスキルを追求することで、従業員は自己効力感を得やすくなり、仕事への没入感も高まります。また広範スキルの獲得は、専門性に欠けるためその世界でプロフェッショナルになることが難しい”
上記の立脚が正しいかの論考は避けますが、実際のビジネス現場で考えてみるとDaniel Southwickの意見は大変参考になると筆者は考えます。
なぜなら現場リーダーが職務ローテーションや人材配置に直接関与できる機会は限られており、人材育成の方針は多くの場合、経営層や人事部門によって策定されます。こうした制約下での、現場リーダーに課されるミッションは、既に配属されたメンバーを的確にマネジメントし、限られたリソースの中でチームの生産性を最大化することにあります。
ここに変革型リーダーの特徴が出現します。変革型リーダーは、既定の業務プロセスの「間隙」に潜む複雑性に着目し、それを成長機会へと昇華させます。一見すると定型的かつ単調に見える業務の中にも、意図的に「手触り感」や裁量の余白を設計することで、メンバーに主体的な学びと挑戦の場を与えるのです。
このように、与えられた条件下に創意工夫を持ち込み、メンバーの内発的動機を引き出すことこそが、組織グリットを上げる変革型リーダーの特徴となります。
4.リーダーだけでは何も変わらない現実―受け取るメンバーの課題―
ここまでの論考では組織グリットを上げる変革型リーダーの特徴をまとめました。しかしながら実際の現場は、リーダーがどれほど尽力しても組織グリットが向上するわけではありません。やはり、リーダーがマネジメントする直接的なメンバーの素養は、切っても切り離せないというのが筆者の考察です。
組織グリットを上げるために、会社、事業部がどれほど支援風土、制度を醸成しても、メンバー自体にその“想いを受け取る状態”がなければ何も届きません。しかし、現在の組織状態の中で、悠長にゼロから時間をかけて新人のマインドを育成していく、というリソースも会社としては、できる限り最小限にしたいはずです。
と考えると、やはりエントリーマネジメントの段階で、“会社の想いを受け取れる”人材を確保することが、組織グリットを向上させる第一のステップになるのではないでしょうか。
マエノメリでは面談を通して、組織グリットへ貢献できるメンバーを育成&スクリーニングし企業へ紹介しています。興味があれば是非ご気軽な相談をしてください。
5.まとめ
今回は変革的リーダーシップを中心として論考を進めました。リーダーシップ理論は様々な変遷を辿り、未だに研究され続ける領域でもあります。変革型リーダーシップはその一部に過ぎません。また筆者も網羅的に理解しているわけでもありません。ただ、多くの企業が抱える組織停滞感を打破するためには、変革型リーダーシップはひとつのヒントになることも間違いないのではないでしょうか。
妥協なきハイスタンダードを掲げる勇気と、部下を本気で伴走させる献身的サポートという二つの車輪が噛み合った瞬間、初めて“やり抜く集団的パワー=組織グリット”が出現します。重要なのは、「待ちの姿勢」で部下の自律性を期待するのではなく、率先垂範で場を整え、感情をデザインし、挑戦ハードルを自分ごととして一緒に乗り越えることではないでしょうか。言葉だけの壮大なビジョンや抽象的な価値観を語る“空中戦”に終始せず、行動・実験・成功体験の反復という“地上戦”で示す──その積み重ねが、チームに「この目標は手を伸ばせば届く」というリアリティをもたらし、長期的な粘り強さを雪だるま式に増幅させるのではないでしょうか。変革とは、遠くにある理念ではなく、目の前の挑戦にどう向き合うかの姿勢にこそ宿るのだろうな、と筆者なりの咀嚼を示しておきたいと思います。
引用文献
・Bass, B. M. (1985). Leadership: Good, better, best. Organizational Dynamics, 13(3), 26-40.
・Hackman, J. R., & Oldham, G. R. (1975) Development of the job diagnostic survey. Journal of Applied Psychology, 60, 159~170.
・Plowman, D. A., Solansky, S. T., Beck, T. E., Baker, L. T., Kulkarni, M., & Travis, D. V. (2007). The role of leadership in emergent, self-organization. The Leadership Quarterly, 18(4), 341–356.
・Southwick, D. A., Tsay, C.-J., & Duckworth, A. L. (2021). Grit at work. Research in Organizational Behavior, 39, Article 100126
・石川 淳(2009)『変革型リーダーシップが研究開発チームの業績に及ぼす影響:変革型リーダーシップの正の側面と負の側面』組織科学 Vol. 43 No. 2 :97-112