【坂井風太×GRIT(やり抜く力)】組織崩壊を招くダークGRITとは-「組織GRIT」と潜むリスク-
組織を強くする「組織GRIT」と潜むリスク
「やり抜く力(GRIT)」はビジネスの世界で無条件に称賛されがちな概念だ。しかしその裏には、ハラスメントの道具になるリスクや、不正につながる「ダークサイド」が潜んでいる。組織心理学の実践者として380社以上の組織強化をリードしてきた株式会社Momentor代表・坂井風太氏と、GRIT人材の採用に特化する株式会社Maenomery取締役副社長・山本弘明氏。理論と泥臭いリアルの両面から、GRITの功罪と組織への応用を語る。
プロフィール

ホスト:山本 弘明(Hiroaki Yamamoto)
株式会社Maenomery 取締役副社長。HR領域におけるベンチャー企業を経て株式会社Maenomeryを共同創業。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員准教授。

ゲスト:坂井 風太(Futa Sakai)
株式会社Momentor 代表取締役。DeNAにて人材育成責任者、子会社代表を歴任。組織心理学に基づいた「再現性のあるマネジメント」を提唱し、380社以上の組織強化をリード。
GRITとは
坂井:Maenomeryさんは弊社の研修プログラムも導入くださっているんですが、事業内容的にもかなりGRITにフォーカスしている事業ですよね。
山本:おっしゃる通りです。弊社はGRIT人材に特化した人材紹介と、GRITという心理特性を持っている方の採用イベント、新卒の採用イベントを行っている企業になります。
坂井:元々アスリート人材がメインで、現在はGRIT人材に特化しているところがあって、アスリート人材とGRIT、もしくは組織GRITとの関連性もお伺いしたいなと思っています。よく体育会系の人材はやり抜く力が強いって言われてますけど、それが本当かとか。全ての体育会系人材がGRIT高いってわけじゃ多分ないですよね。
山本:おっしゃる通りです。
執念深さこそGRITの核心
坂井:まずGRITってどういう概念でしょうか?
山本:アンジェラ・ダックワースさんというペンシルベニア大学の心理学者が提唱した概念で、長期目標に対してやり抜く力ということですね。
より詳しく知りたい方はこちら:GRIT(グリット)とは?やり抜く力の意味や伸ばし方、見極め方法を解説
坂井:なんでそんなに大事だと思いますか?
山本:やっぱり今って不確実性がものすごく高いと思うんですよ。そもそも正解がわからないし、修正が当たり前だし、本当に成功するのかもわからない事業ばかりで。その中でも長期的な目標を見失わずにやり抜けるかどうかっていうのは、いろんな企業さんと話しても求められてるなと感じますね。
坂井:確かに。私も前職でも今でもそうですけど、最初から絶対うまくいくって確信を持てる事業やプロジェクトなんてほぼなくて。「うまくいくかなあ……」と思いつつ、徐々に成功を手繰り寄せていくっていう感覚の方が近いんですよね。その時に必要なのがGRITだと思っています。
坂井:Xとかでね、宝石を掘りに行くネットミームの画像があるじゃないですか。上にちゃんと宝石を取った人がいて、下にあとちょっと一枚あるのに帰っちゃう人がいるやつ。
作品名(通称): N ever Give Up / Digging for Diamonds
著作者名: Edson Junior(オンライン活動名: Dum)https://knowyourmeme.com/memes/never-give-up-digging-for-diamonds
山本:ありますね(笑)。
坂井:あれに近いなと思うんですよ。もうちょっと頑張れば成功するのに、なんで帰っちゃうのって。当初の熱量どこ行ったのこの人、と。私はやっぱりGRITって執念深さだと思っていて。変に計算高くなく、うまくいくかわかんないけど期限は決めてここまでやってみるかっていう人たちが、結局いきなり成果を出すことがある。だから執念深さが大事だなと思ってGRITに着目してるんです。
生成AI時代に「努力は2回必要」が突きつけるもの
山本:さっきの「計算高く」って話がめちゃくちゃ面白くて。今って生成AIもそうですけど、計算がものすごくしやすくなったじゃないですか。計算がしやすくなったからこそ、計算できない部分がものすごく注目されている感じがするんですよね。
坂井:そう思います。生成AIが出力を早く出してくれるけど、それを真に受けるのか、「本当に自分が知りたいことってこれだっけ」とか、「もうちょっと現実に肉薄したアウトプットにできないかな」って問い続けるところは、GRITと近いと思っていて。アイデアも情報もいっぱいあるけど、それを加工して成果につなげるかどうかの比重が急激に上がっているから、GRITが重要になってきたんだと思います。
山本:アンジェラ・ダックワースが著書の中でも言っているのですが、努力って2回必要なんですよね 。才能に努力を掛け合わせることで「スキル」になり、そのスキルにさらに努力を重ねることでようやく「成果」につながるため、計2回の努力を積み重ねなければならないという話です 。
坂井:面白いですね。
山本:で、結局今どうなっているかというと、生成AIなどの登場によって「スキルを身につけるところまでのスピード」はめちゃくちゃ早くなっています 。でもそこが楽になればなるほど、スキルを身につけたっていう経験がぎゅっと短くなるじゃないですか 。一方で、実際に「成果」が出るまでは全く別の話で、そこまでの道のりは依然としてものすごく長いんです 。だからこそ、「スキルは身につけたはずなのに成果が全然出ないな」というギャップに耐えられず、途中で逃げ出してしまう人が出てくるんですよね 。
坂井:その通りだと思います。

「成長意欲はあるが成功意欲はゼロ」——器用貧乏と「0.7の縮小」
坂井:ダニング・クルーガー効果のようなもので、最初は気持ちがすごく高まるけれど、壁にぶつかって一回落ちた瞬間に、自力で登ってこられない 。私もDeNAで人材育成の設計をしていた時に痛感したのですが、成長には本当に「二段階」あるんですよ 。育成プログラムを整備すればするほど、脱落しない新卒も増えるし、器用にバッと伸びる新卒も増える 。1、2年目までは器用にいろんなことをこなす人材が育つんです 。
でも、いざ「この事業を本気で伸ばす」という泥臭いフェーズになると、途端に動かなくなる 。一段階目で器用にこなせてしまうがゆえに、二段階目の進化が起きずに止まってしまうんです 。

坂井:1段階目の成長は早いけれどその後が全く伸びない 。結局、GRITには「長期目標」という因子と「努力の粘り強さ」が必要なのに、まず長期目標を持っていないんです 。ずっと違和感だったのが、「成長意欲はあるけれど成功意欲はゼロ」という人が結構いること 。「成長したいです!」とは言うけれど、その先に何があるのか、何を叶えたくて仕事をしているのかという「執着」がない 。だから、一定のところで天井が来てしまうんです 。
あとは「コスパ主義」の影響もあります 。70点までは高速で行くけれど、そこから100点、120点に行くために必要なのは、その領域に対する異常なほどの執着、いわば「狂気的な努力」です 。でも、そこまで突き詰めずに「自分、だいたいできるようになったんで別の部署に行こうと思います」と言って辞めてしまう 。こちらからすれば「まだ70点くらいだよ」と思うのですが……。そうやって器用貧乏な新卒が増殖してしまうんです 。
山本:「軸のないピボット」ですよね 。本来、ピボットは軸があるから成立するものなのに、軸がないままあっちこっちへふらふら行っている 。何も積み上がっていないように見えます 。
坂井:バスケットボールで言えば「トラベリング」している状態ですよね。(笑) 本来は1.0以上のものを掛け算していくから成果が大きくなるのに、彼らは0.7を掛け続けている 。掛け算をするたびに成果がどんどんちっちゃくなっていくのを見て、「おい、ぶち抜くまでやり遂げろよ!」とずっと思っていました 。
「グリハラ」の自覚と狂気的努力の価値
坂井:だから僕、努力って「狂気的な努力」以外はほぼ無価値化していくと思っているんです 。だって、ほとんどのホワイトカラーの仕事は生成AIで7割から8割ができてしまう 。熱量や専門性を「上・中・下」で分けた時、「上の下」以下は、自分のデータセットを食わせてプロンプトを作ってやれば終わる。そんな中で、異常な熱量以外に価値を生むものなんてあるのか、と 。
山本:間違いないです 。アンジェラ・ダックワースが「意図的なトレーニング」という話をしていますが、まさにそうですね 。長期的な努力の本質は、意図的な努力なのだと思います 。でも最近は、入社したら今の自分の特性をそのまま活かせて、辛いことが一切ない仕事があるかのような感覚で就職先を選んでいる人がいる 。正直、「あるわけないよ」と言いたくなります。成果を出すために、どれだけそれとは逆の辛いトレーニングが必要なのかという視点が抜けているんです 。
坂井:2人の「暗部」が出始めましたが(笑)、これは「行きすぎた多様性」の弊害かもしれません 。いろんな価値観があるのはいい。でも、「自分の価値観に合致した会社だから、ありのままの自分を100%受け入れてくれる」と思い込んで、そうでないと不満を言う。そんな完全に一致する職場なんて、この世にないんですよ 。
山本:間違いないですね 。
坂井:もちろん、環境が個人に合わせることも大事だから、僕らもマネジメント理論を整備しようとしています 。でも一方で、個人が環境に合わせる姿勢も絶対に必要なはずです 。それは単に環境に順応するということではなく、「この事業を伸ばすためには何が必要か」「お客さんに喜んでもらうにはどうすべきか」という真摯な熱意があれば、本来は個人と組織の目的が統合されるはずなんです 。なのに、そこを考えずに「私のやりたいことだけやりたい」「成長したい」と言って、永遠に成果に0.7を掛け続けて(価値を縮小させて)いる 。
GRITは鍛えられるのか
「待っている人がいる」という言葉
山本:坂井さんは事業責任者として、「0.7の掛け算」をしているメンバーをどうマネジメントしていたんですか 。一方で、「やっぱり限界もあるよね」という感覚もあると思うのですが、その2点を聞かせてください 。
坂井:面白い問いですね。私は正直、自分を「グリハラ(GRITハラスメント)」しがちな人間だという自認がかなりあります 。「やると決めたことをなんでやらないんだろう」と思って顔が曇ることは人より多いですし、それが原因で眠れない夜もあります 。(笑)
ただ、そこには2つの問いが大事だと思っていて。1つ目は「GRITには可鍛性(かたんせい)があるのか、つまり鍛えられるのか」ということ。2つ目は「とはいえ、無理なんじゃないか」ということです 。
まず可鍛性については、「是」だと思っています 。私も今でこそGRITがある体(てい)で喋っていますが、最初から高かったわけではありません 。それはある意味「作られた経験」なんです 。私が粘り強くやれている時に、「坂井さん、もうちょっとだよ」「まだ諦めないほうがいいよ」と言ってくれた人や、「お客さんが待ってるからやろうよ」と声をかけてくれた人がいた 。今も私がGRITを発動できている一番の理由は、「待っている人がいる」というなんですことなんです 。
山本:面白いですね。
坂井:GRITの開発には、理想の自分を追う軸もありますが、「GRITが高い人材に触発される」という環境要因も確実にあります 。お問い合わせくださるお客さんも非常にGRITが高く、その姿を見ると「自分がここで諦めちゃいけないな」と思わされる 。だからやっぱり、GRITは環境要因であり、開発できるものなんです 。そう考えると、かつての私にできたことは「あのお客さんが待ってるからやろうよ」「もうちょっとだよ」と声をかけることだったのかもしれない 。なのに当時の私は、「なんでやりきらなかったの」と言って相手を潰しまくっていた 。それでは相手のGRITは鍛えられないし、組織成果も上がらない。「グリハラ」はそこから生まれていた気がします 。
GRITの「矛先」が違うということ
坂井:ただ一方で、「GRITを鍛えるのは無理なんじゃないか」と思う時もあります 。それは「何に対するGRITなのか」という矛先の論点です 。
私は実家が自己破産して貧乏だったので、「お金持ちになって大きな家に住みたい」という強い欲望に基づいたGRITがありました 。しかし、欲望の強さや矛先は人によって違います 。「早く帰る」ということにGRITを発揮する人もいるかもしれない 。これはGRITの有無ではなく、向いている矛先が違うんです。だから「あ、これは(会社として開発するのは)無理だ」と思っちゃう時が結構ありますね 。
山本:会社の目指すべき方向と、本人のGRITの方向が合っているのかどうか。その見極めは採用においてもめちゃくちゃ大事な視点ですよね 。

組織GRITについて
380社を見た中での「二大巨塔」
坂井:もう一つ今日お話ししたかったのが「組織GRIT」です 。私は自分自身で理想の組織GRITを作りきれなかったという悔しさがあるからこそ、この領域はかなり研究熱心にやっていますし、組織GRITが高い会社の特徴も相当分析しているんです 。
山本:坂井さん、具体的に何社くらい組織を見られてきたんですか
坂井:380社くらいだと思います 。その中でも、組織GRITが突出している「二大巨塔」があるんです 。一つはミギナナメウエさんという会社。そしてお世辞でも何でもなく、もう一翼がMaenomeryさんです 。これは本当に異常なほど高い。
私が組織GRITという概念に強く興味を持ったのは、実はMaenomeryさんを見たからなんです 。「アスリートが過小評価されている現状を変えたい」という強烈な共通目標や共有メンタルモデルがあり、メンバーが歩んできた体験の同質性が非常に高い 。それに加えて、やると決めたことをやり抜く徹底ぶりが凄まじい。研修中も誰一人手を休めずメモを取り、学んだアクションを確実に実行される 。理論で見れば色々な組織がありますが、体感としての組織GRITは、山本さんの方がよほど詳しいんじゃないかと思っていますよ 。
山本:意識していない部分もあるのですが、坂井さんにそう言われて「なるほど」と思ったことがあります 。僕らがGRITを体現できているのは、僕個人がどうこうというよりも、マネージャーや一緒に研修を受けているメンバーたちが、誰よりも先に、めちゃくちゃGRITしてくれたことが大きいんです 。それを見て、逆に僕自身が「あ、僕ももっと頑張らなきゃいけないな」と突き動かされる感覚がすごく強かったですね 。
坂井:まさに、そういうことですよね。

『鬼滅の刃』の「痣」のメタファー——感情伝染とクロスオーバー
坂井:組織GRITの研究を読み解くと、妥当性が高い要因は二つに集約されます 。一つは「GRITが高い人材が組織内にいること」。二つ目が「共通目標性」です 。私は、中でも「一つ目」が決定的に大事だと思っています。
前職での経験を振り返っても、隣にいる同期や先輩がどんな苦境でも逃げずにやり抜いている姿を間近で見ると、「自分にもできそうだな」という効力感が生まれるんです 。そうでなければ、「あの人は特別だから自分とは違う」と切り離してしまいますから 。これは「自分は変われる、鍛えられる」と思える成長マインドセットとも深く関わっていますね 。
山本:なるほど。
坂井:これはいわゆる「感情伝染」や「クロスオーバー理論」と呼ばれるものです 。GRITが高い人が数人揃っていて、周囲に「あの人と自分は似ている」と思わせることが鍵になります 。よく『鬼滅の刃』で「痣(あざ)」の話が出てくるじゃないですか 。
山本:ありますね(笑)。
坂井:あの描写が素晴らしいのは、主人公の炭治郎が死に物狂いで頑張って「痣」を出すと、それが彼一人の物語では終わらなくなるところです 。彼と志を同じくする「柱」たちにも、次々と痣が発現していく。炭治郎のGRITが感情伝染を起こし、同質性の高い仲間たちの中でクロスオーバーして、組織全体が痣を持って戦い始める 。組織GRITの本質は、この「自分と似ている」という感覚の中での伝播にあるんでしょうね。
その意味で、Maenomeryさんはスポーツ経験者という似たバックグラウンドを持つ人が集まっているから、組織GRITが爆発的に高まりやすいんです 。ただ、それは諸刃の剣で、同質性が高すぎると外部に対する排他性が生まれるリスクもある 。だからこそ、研修を通じて「理論」という共通言語を導入し、暗黙の了解を言語化しようとされたんでしょうね 。
山本:おっしゃる通りです。
ダークGRITについて
「達成のために倫理観がバグってもいいんじゃないか」
山本:Maenomeryという会社にいると、そこがもう一つのコミュニティ、一つの世界になってくるんですよね 。そうなると、ここの「当たり前」が本能的に当たり前になってしまう 。その中で、実は最近GRITの危険性も気になっていて、研究でも「ダークGRIT」や「強欲GRIT」という言葉が出てきているんです 。
坂井:面白いですね、それは知らなかったです。
山本:平たく言うと、目標達成のためなら「倫理観がバグってもいいんじゃないか」という危うさです 。正しく頑張って成果を上げる人と、グレーな領域を攻めて凄まじい成果を上げる人がいた時、マネージャーはどちらを評価するのか 。どうしても、グレーな人が評価されがちになる力学が働いているのではないかという説です 。
坂井:最高に面白いですね、腑に落ちました 。私もGRITに近い概念で「強欲」に関する論文を読んだりしますが、それも同様で不正と関係してしまうんですよ 。結果への執着だけをGRITと捉えてしまうと、「不正を犯してでも、グレーゾーンをやってでも、何かを叶えることが大事だ」となってしまう 。本来は、それを「インテグリティ(真摯さ・誠実さ)」という概念で補正しなきゃいけないんです 。
GRITは性格の五大因子(ビッグファイブ)の「誠実性」と相関があるはずですが、それはあくまで相関にすぎません 。インテグリティ、つまり「人の見えないところでも正しいことをする」とか「不正を絶対に犯さない」という軸がないと、GRITは容易にダークサイドに落ちてしまう 。非常に示唆深いですね 。

「ハビトゥス」に刻まれた思考停止の危険
山本:ピエール・ブルデューの『ディスタンクシオン』を読んだことありますか。「ハビトゥス」って概念が面白くて。
坂井:ブルデューの概念ですね 。
山本:体育会系の子たちは、長期的に身体的な訓練を通じて「罰と報酬」を受け続けますよね 。それによって勝利至上主義が刷り込まれ、「何をやっても勝てばいい」という感覚が、もはや考える以前に、身体の本能的な当たり前になってしまっているんです 。
坂井:まさに身体的に埋め込まれるという意味での「ハビトゥス」ですね 。
山本:そうです 。だから先輩が「これやれ」と言った瞬間に、それが善いことかどうかを判断する前に、本能的にアクションしてしまう 。不正も平気で、「先輩が言っているこれって、本当にいいんだっけ?」と疑うこともできず、権威主義的にパンと動いて問題を起こしてしまう 。そんな力学があるのではないかと、最近はブルデューを引用して考えています 。
坂井:それは非常に良いテーマですね。いわば「理性あるGRIT」が問われているのでしょう 。習慣というものはある環境に最適化されて作られているにすぎず、それが暗黙的・無意識的になってしまうと、正しさを疑う理性や倫理観が消えてしまう 。同質性が高まりすぎると、誰も「本当にいいんだっけ」と問い直せなくなるということですよね 。
山本:おっしゃる通りです 。
「半強制的に違和感を取りに行く」
山本:Maenomeryの中にいると、ここの「当たり前」が本能レベルで染み付いてしまうので、それを身体的に取り戻す必要があるんです 。だから、あえて他のコミュニティの人や、違う年齢層の人に会って話をするようにしています 。そうすることで初めて、「あ、僕の抱いているこの違和感は何なんだろう」「これは普通じゃなかったんだ」と気づける 。半強制的に自分で違和感を取りに行かなければ、ダークGRITを補正することはできないなと思いました 。
坂井:これは未だにYouTubeコンテンツにないものですね。GRITっていうのはやっぱり称賛側の概念として扱われがちだけど、ダークGRITに着目されているのは素晴らしいと思います。組織GRITを一個超えた、もっと深みのある話ですよ。それは実体験があるから言えるんでしょうね。
山本:そうですね、僕も経験があったりもするし、身近で見てるのもあるので。
採用におけるGRITの見極め——「一拍置けるかどうか」
坂井:よく「体育会系はやり抜く力が強いから採用する」という単純な論理がありますが、これについてはどうお考えですか 。
山本:研究データとして、高い競技レベルに達した人のGRITが高い傾向にあるのは事実です 。しかし、全員がそうかと言われれば全く違います 。「体育会系=GRITが高い」と決めつけるのは、あまりに盲目的で短絡的だなと感じますね 。
坂井:では、「良いGRIT」と、そうではない「危ういGRIT」の差分はどこに現れるのでしょうか 。
山本:面接で見極めるとしたら、例えば「僕がこれからグレーなことをしようとしているけど、君ならどうする?」と聞いてみます 。そこで「先輩が言うならついていきます」となってしまうのか 。あるいは、イエスでもノーでもいいのですが、反射的に動くのではなく「一拍置けるかどうか」。ちゃんと自分の頭で考えられるかどうかが、具体的なティップスになるかなと思います 。
坂井:それこそが真の倫理観ですね 。先輩が「黒」と言ったら白いものまで「黒」にしてしまうのか、それとも「黒は黒、白は白です」と言えるのか 。倫理観が自分の内側にしっかりあるかどうかです 。
私が面接で見ていたのも、その人の中に「自分なりの判断軸」があるかどうかでした 。「なぜこの会社なの?」と聞いて、「部活のOBがこう言っていたので」と返ってくると、「なんじゃそりゃ」と思ってしまう(笑) 。それは、自分自身で意思決定の軸を熟成させてこなかった証拠ですから 。言われたことはやるけれど、それは本当の意味でのフォロワーシップではない 。真のフォロワーシップとは、上司個人ではなく、組織が達成しようとしている目標に対して従うことであるはずです 。だからこそ、「なぜそれに従おうと思ったのか」「なぜこの会社がいいのか」という本質的な軸を問うようにしていました 。

まとめ
坂井:今日の話は本当に勉強になりました。あらためて振り返ると、GRITには一定の可鍛性(かたんせい)があるかもしれないけれど、結局は「その人のGRITがどこに向いているか」という矛先をちゃんと見極めることが大切なんだな、と。GRITが高いか低いかといった二次元的な話ではなく、「何に対してGRITを発動できる人なのか」という視点ですね。
山本:そこが合っていないと、どれだけ能力があっても組織としては機能しなくなってしまいますよね。
坂井:そうなんです。組織GRITにしても、共通の目標があることはもちろん大事ですが、本質は「感情伝染」や「クロスオーバー」にある。だからこそ、突き詰めれば「GRITの高い人材を採用し、揃えること」が組織を強くする鍵になってくるわけです。
山本:おっしゃる通りだと思います。
坂井:そして何より、今日一番の発見だった「ダークGRIT」には気をつけなきゃいけない。下手をすればそれを「グリハラ(GRITハラスメント)」の道具として使ってしまうかもしれないし、「やり抜くこと自体が善なのか」「その手法は正しいのか」という倫理観が内面化されていないと、結局は不正に繋がりかねない。ここは私自身もハッとさせられました。
山本:僕の方こそ、坂井さんに言語化していただいて、より学びが深まりました。
坂井:Maenomeryさんがすごいのは、GRITという概念を圧倒的なリアリティを持って体現しながら、山本さん自身がものすごい勉強家であることですよ。本も論文も読み込んで、あの泥臭いリアルの現場と理論を必死に繋げようとしている。その姿勢こそが、今の時代に求められる真の誠実さだと思います。
結局、GRITは薬のようなものですね。用法・用量を守って正しく使う。これに尽きるなと思いました。本日はありがとうございました!
山本:ありがとうございました!