AIが「測れるもの」を増やす時代に、人事が本当に見るべき力とは
1.「測れる時代」に、なお残る採用の悩み
いま、あらゆる産業でAIを前提にした変化が進んでいますよね。
もちろん人事・採用の領域も、進化が進んでいます。
適性検査や動画面接、エンゲージメントサーベイ、入社後のパフォーマンスデータ。これまで面接官の経験や勘に委ねられてきた「人を見極める」という行為が、AIとデータによって、より多面的に、より高い解像度で捉えられるようになってきました。
では、測れるものが増えれば、採用と定着の悩みは消えるのでしょうか。
残念ながら、多くの人事担当者の実感は「ノー」に近いはずです。
厚生労働省の最新調査でも、大卒新入社員の3年以内離職率は33.8%。
いまも3人に1人が、3年以内に職場を離れています。
3人に1人は、入社を決めた会社で、ミスマッチ、人間関係、年収が上がらないなど、様々な理由で早々に辞めていく。でも逆に、苦しい時期を越えて活躍していく人もいる。
人事担当であれば、もちろん後者の“苦しい時期も乗り越えられる人材”を事前に見極めたいですよね。
ではどうやって見極めるのか?
考えるヒントは、AIがもたらす変化の方向にあります。
世界経済フォーラム(WEF)は、現在のスキルの約4割が5年以内に陳腐化すると予測する一方で、「今後伸びるスキル」の上位に、レジリエンス(復元力)や柔軟性といった人間的な力を挙げています(World Economic Forum, 2025)。
詳しくはこちら:世界経済フォーラム「仕事の未来レポート2025」
変化が速い時代ほど、「環境が変わっても、やり抜けるか」の価値は、むしろ高まっていくのです。
本稿では、この問いを「実行の谷」というMaenomeryの独自の観点から深掘りしてみたいと思います。そしてその谷を越える力を、AI時代の人事はどう見極められるのか――補助線としてのGRITスケールまでを視野に、考えていきます。
2.「実行の谷」とは
私たちMaenomeryは、努力を始めてから成果が出るまでの間に訪れる、最も苦しい期間を「実行の谷」と呼んでいます。

入社直後や、新しい挑戦の始まりには、期待や高揚感があります。
「頑張れば成果が出るはずだ」 「自分ならできるはずだ」
そう思って、走り出す。
しかし、現実の仕事では、努力がすぐに成果へ変わるとは限りません。
行動しているのに、数字が出ない。
学んでいるのに、評価されない。
頑張っているのに、自信だけが少しずつ削られていく。
この、努力と成果の間にあるタイムラグこそが「実行の谷」です。
多くの人は、この谷の底で「自分には向いていないのではないか」「この環境では成長できないのではないか」と感じ、足を止めてしまいます。早期離職は、まさにこの谷の底で起きやすいのです。
一方で、活躍する人材は、この谷の期間をただ耐えるだけでなく、試行錯誤を続けながら越えていきます。だからこそ、活躍と定着を分けるのは、最初から能力が高いかどうかだけではありません。
目先の成果に一喜一憂せず、その先にある目的までブラさずに、行動と努力を続けられるか。
この「実行の谷」を越える力こそ、GRIT(やり抜く力)の本質だと、私たちは考えています。
GRITとは?:https://www.maenomery.jp/article/29
3. やり抜く力を見極める補助線 ― GRITスケール
では、その「やり抜く力」を、どう見極めればよいのでしょうか。
ここで参照したいのが、心理学者アンジェラ・ダックワース(Angela Duckworth)の研究です。ダックワースは、GRITを「長期的な目標に向けた、情熱と粘り強さ」と定義し、これを測定するGRITスケール(Grit Scale)を開発しました(Duckworth et al., 2007)。
さらにDuckworth & Quinn(2009)は、より簡便なShort Grit Scale(Grit-S)を提示し、その妥当性を検証しています。
GRITスケールが優れているのは、一時の根性論ではなく、「興味の一貫性」と「努力の粘り強さ」という二つの下位概念から、長期にわたる持続性を捉えようとする点にあります。
これはまさに、実行の谷を越える力の見極めに通じます。
谷の底で問われるのは瞬間的な頑張りではなく、「この目的に、谷を越えてでも向かい続けられるか」という持続の質だからです。
4. ただし、スコアは「補助線」にすぎない
ここで一つ、注意を添えておきます。
GRITスケールは、万能の指標ではありません。
学術の世界でも、その妥当性をめぐっては議論があります。
たとえば、大規模なメタ分析では、GRITは既存の「誠実性(真面目さ)」という性格特性と重なりが大きく、それを超える独自の予測力はそれほど大きくないのではないか、という批判が示されています(Credé et al., 2017)。
加えて、GRITスケールは自己回答式です。
回答には、その日のコンディションや自己評価の癖が混じります。
とりわけ採用選考の場面では、応募者が「望ましい回答」を選べてしまう余地もある。
スコアをそのまま信じ込めば、かえって人を見誤りかねません。
では、GRITスケールは使えないのか。
もちろん、そうは考えません。
大切なのは、スコアの数字そのものではないからです。
そのスケールを通じて、自分自身の「やり抜く力」をどこまで言語化できているか。
そして、その言語化を、ビジネスの現場でどこまで活かそうとするか。
問われているのは、むしろ使う側のスタンスです。
これまで「あの人は粘り強い」と感覚的にしか語れなかったものを、共通のものさしで捉え直す。スコアの高低で合否を決めるためではなく、「この人のやり抜く力は、どんな局面で、どう発揮されるのか」を解像度高く対話するための、共通言語として使う。
そして何より、見極めて終わり、ではありません。
スコアやその後の対話で見えてきた一人ひとりの特性を起点に、谷を越えられるよう育てていく。
スコアは「出発点」であって、「結論」ではないのです。
最終的な見極めも、育成も、面談での対話や、過去にその人が苦しい局面で何を選んできたかという「行動の事実」と重ね合わせてこそ、確かなものになります。
参考までに、GRITスケール(Grit-S)の質問項目を以下に掲載します。

5. Maenomeryがやっていること
AIは、採用前の「測定」をかつてないほど高度にしてくれました。
けれど、入社後に必ず訪れる「実行の谷」を、本人に代わって越えてくれるわけではありません。
Maenomery(マエノメリ)では、
実行の谷を乗り越えるGRIT(やり抜く力)を備えた人材を見極め、育て、ご紹介しています。
スコアという補助線だけに頼らず、面談を通じた行動事実の確認と、谷を越えるための環境設計までを射程に入れて伴走する。
それが私たちの提供価値です。
採用や若手定着の課題に向き合われている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
最後に、本稿の核を改めて示しておきたいと思います。
測れるものが増える時代だからこそ、最後にものを言うのは、成果が出ない期間――「実行の谷」を越えていく力です。
そしてその力は、一枚のスコアにではなく、谷の底で何を選んできたかという行動事実と、谷を一人にしない環境のなかにこそ宿ります。
AIに「何ができるか」を任せられる時代に、人事に残された最も人間的な仕事は、「この人は、まだいける」と信じ、谷を越える設計を共に描くことなのかもしれません。
引用文献
Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 492–511. https://doi.org/10.1037/pspp0000102
Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087–1101. https://doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087
Duckworth, A. L., & Quinn, P. D. (2009). Development and validation of the Short Grit Scale (Grit–S). Journal of Personality Assessment, 91(2), 166–174. https://doi.org/10.1080/00223890802634290
World Economic Forum. (2025, January 7). <報告書発表>2030年までに7,800万の新たな雇用機会が生まれる見込みだが、労働力の準備には緊急のアップスキリングが必要 ~「仕事の未来レポート2025」~. https://jp.weforum.org/press/2025/01/future-of-jobs-report-2025-78-million-new-job-opportunities-by-2030-but-urgent-upskilling-needed-to-prepare-workforces-86fe90d4bf/
厚生労働省. (2025年10月24日). 新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html