ラベリング採用をやめると、何が起きるのかー「思っていた人と違った」が起きる構造
はじめに
採用のミスマッチは、面接での見極めだけに原因があるわけではありません。
会う前の段階で、ラベルによって候補者を絞り込みすぎていることもあります。
ラベルというのは、たとえばこういうものです。
- 大学名
- 体育会かどうか
- 「サークルの代表」「エースだった」「長期インターン経験あり」
大学名が表しているのは、18歳のときの偏差値です。22歳の今ではありません。
体育会かどうかは、4年間どこに所属していたかであって、そこで何をしたかではありません。
肩書きも同じで、それを得るまでに何があったかは入っていません。
どれも便利な絞り込み条件です。
実際、多くの企業がこれで一次的な母集団をつくり、面接の話題もここから広げています。
限られた工数の中で候補を絞るには、こうした条件に頼るしかない場面もあります。
ただ、この3つには共通点があります。
その人が何をやり抜いてきたかという情報が、ひとつも入っていません。
そして採用で本当に知りたいのは、その部分のはずです。
入社してから最初の壁にぶつかったとき、その人が立ち上がるのか、辞めるのか。
ラベルは、ここについて何も教えてくれません。
この記事では、なぜラベルで採ると「思っていた人と違った」が起きるのかを、体育会採用のデータを手がかりに考えます。
そのうえで、ラベルの代わりに何を見ればいいのかを整理します。
体育会採用に限った話ではなく、大学名でも、資格でも、構造は同じです。
企業がラベルで選んでしまう構造
体育会学生の就職を長年追いかけている調査があります。
『日本労働研究雑誌』に掲載された「体育会系神話の歴史と現在」という論文です。
学生アスリート15,669人から回答を集め、そのうち7,115人分を有効サンプルとして、2021年3月卒の内定状況を分析しています。
人気企業トップ300社に内定した割合は、全体で6.9%でした。
この記事で注目したいのは、内定率そのものより、何が内定を左右していたかのほうです。分析に使われた変数は、次のとおりです。
- 性別/国公立か私立か
- 大学の威信ランク
- 入試方法(スポーツ推薦・指定校推薦・一般など)
- GPA/部活動の最高成績/部内での競技力
- 学業と競技の両立状況
結果、すべてのモデルで最も強く効いていたのは、大学の威信ランクでした。競技実績でもなければ、学業成績でもない。入試方法でもありません。
つまり、体育会の学生に対しても、企業は結局のところ大学名で判断していたことになります。「体育会だから採る」と言いながら、実際に効いていたのは別のラベルだった。ここは一度、立ち止まって受け止める価値があると思います。
もうひとつ、この論文には見逃せない数字があります。トップ300社への内定率は、男性6.0%に対して女性8.7%でした。女性が男性を上回っています。
この調査は2010年代半ばから定点観測されていますが、女性が上回るのは初めてだと報告されています。2014年時点のデータをもとに、かつては「男性であること」が体育会系の就職に強い条件のひとつに挙げられていました。その仮説は、今回の分析で取り下げられています。
7年でひっくり返るものを、私たちは「傾向」と呼んで採用基準にしてきました。
ラベルの中身は、こちらが気づかないうちに入れ替わっています。
ラベルで採ると、なぜ「思っていた人と違った」が起きるのか
集団の傾向が変わることに加えて、統計と個人の違いにも理由があります。
ラベルは、集団の傾向を表しています。「この属性の人は、平均するとこういう傾向がある」という情報です。
採用で必要なのは、目の前の一人がどうかという情報です。この2つは、似ているようで別のものです。
さらに厄介なのは、絞り込みの基準が適切だったかを確かめにくい点です。
採用した人のその後は、社内に記録が残ります。書類で落とした人のその後は、誰も知りません。
検証できるのは、採った人の中での成否だけです。落とした人の中に誰がいたかは、わからないまま終わります。
そのため、ラベルによる絞り込みは見直されにくくなります。うまくいった年があれば、その基準はさらに固定されがちです。
このズレが表に出てくるのは、たいてい入社後です。大学を出て就職した人の3年以内離職率は33.8%(厚生労働省、令和4年3月卒業者)。3人に1人が、3年以内に辞めています。
この数字だけで離職の原因はわかりません。ただ、「学生の覚悟が足りない」で片づけず、採用時に何を見ていたかも振り返る必要があります。
「そんなはずではなかった」を防ぐには、会う前のラベリングから見直す必要があります。 所属や肩書きだけで母集団をつくっていると、その人の経験を知る作業が、面接という短い時間に集中してしまうからです。
じゃあ、何を見ればいいのか
ラベルの代わりに見るべきなのは、その人がどうやって上達したかというプロセスです。
先ほどの「体育会系神話の歴史と現在」では、見極めの質問がひとつ挙げられています。
「あなたは大学時代、どうやって上達したのですか」。
目標を立てて、計画して、やってみて、振り返って、直す。
このサイクルを何度も回してきた学生は、この質問に時系列で答えられます。どこでつまずいて、何を変えて、それでどうなったか。自分の言葉で説明できます。
一方、チーム名や役職、大会の名前ばかりを話す学生もいます。
論文はこれを「名目体育会系」の可能性があると表現しています。
所属は本物でも、そこで何をやり抜いたかを語れない状態です。
同じ質問をしても、返ってくるものははっきり分かれます。
- 語れる学生 つまずき、変えたこと、結果を時系列で話す
- 語れない学生 チーム名、役職、大会名で話が終わる
この見方には、心理学側からの裏付けもあります。GRITを提唱したダックワース教授の研究に対して、Credéらは88のサンプル、のべ66,807人分のデータを集めたメタ分析を行いました。そこでわかったのは、GRITの予測力がどこに載っているかという内訳です。
GRITは「情熱の一貫性」と「粘り強さ」の2つの要素で構成されています。分析の結果、成果を予測していたのはほぼ「粘り強さ」のほうで、「情熱の一貫性」はほとんど寄与していませんでした。
これは採用の現場に、そのまま示唆を与えてくれます。見るべきなのは「ずっと同じことを続けてきたか」ではなく、「うまくいかない時期に、何をやり続けたか」です。 一途さは、それ自体では成果につながっていません。
競技を途中で変えた学生や、大きな挫折を挟んだ学生を、一貫性がないという理由で落としていないか。ここは一度、自社の見極め基準を点検する価値があります。
面接での見極め
ただし、経験をうまく語れないことと、やり抜いた経験がないことは別です。
この違いまで、30分の面接で見極めるのは簡単ではありません。
というのも、学生本人が、自分の経験をまだ言語化できていない場合があるからです。
多くの学生にとって、部活の4年間は「当たり前にやっていたこと」です。
- 毎朝5時に起きていたこと
- レギュラーを一度失ってから、半年で取り返したこと
- 後輩の相談に乗り続けたこと
- 相手チームの分析に、誰よりも時間を使ったこと
どれも本人の中では、特別な出来事として整理されていません。だから聞かれても「頑張りました」としか出てこない。
ここを面接官の見抜く力の問題だと捉えると、対策を間違えます。
構造化面接の設計や、質問集の整備に投資しても、学生の側に言語化された素材がなければ、引き出せるものには限界があります。
しかも、多くの企業に時間の余裕がありません。
マイナビが2,192社に聞いた調査では、新卒採用の担当者数は「1名」が19.4%、「2名」が38.2%でした。
合計で57.6%の企業が、2名以下の体制で新卒採用を回しています。 この人数で、一人ひとりの学生の4年間を掘り起こしていくのは、現実的ではありません。
必要なのは、面接の技術を磨くことに加えて、会う前に経験を言語化する時間を確保することです。
学生が自分の経験を言葉にするまでの時間を、誰かがどこかで負担する必要があります。
その時間を確保しないまま、面接だけを精緻にしても、見えないものは見えないままです。
見極め方を変えるうえで、もうひとつ気をつけたいことがあります。
「GRITがある」という評価だけで選んでしまえば、大学名や所属で選ぶのと同じことになります。
ダックワース教授自身が、この点に警鐘を鳴らしています。
教授は、自分の研究が「重い判定に性格評価を使うこと」に意図せず加担してしまったのではないかと述べ、GRITだけを切り出す扱いを戒めています。
診断のスコアで足切りを始めた瞬間に、それは大学名と同じ機能を果たします。
診断は、どこを深く聞くべきかの当たりをつけるためのものです。
それ単体で合否を決めるためのものではありません。
やり抜いている人ほど、就活市場に出てこない構造
ここまでは、目の前に来た学生をどう見るかという話でした。
ただ、もっと手前に問題があります。見るべき学生が、そもそも母集団に入ってきていない可能性です。
大学部活動、学生団体、研究室。何かに没頭している学生には、共通する構造があります。
- 時間がない 練習、活動、実験でスケジュールが埋まっている
- 生活圏が狭い 就活の情報が入る経路が、同じコミュニティの先輩に限られる
- 時期が遅い 引退してから動き出すので、市場に出てくるのが遅い
- 言語化できていない プロフィールに書けるのは所属名だけ
ナビサイトへの登録も、スカウトへの返信も、「空いた時間に自分から情報を取りに行く」という行動を前提にしています。没頭している学生には、その空き時間がありません。
生活圏の狭さについては、私たちの以前の記事(【体育会がすぐ辞める⁉︎】体育会採用はギャンブル採用である)でも書きました。
部活に打ち込む学生の場合、授業も、食事も、友人関係も、同じメンバーとの関係で完結してしまうことがあります。研究室も学生団体も、程度の差はあれ同じです。
そして時期です。やり抜いている人ほど、就活市場には遅れて現れます。
早期選考が広がった今、この遅れは決定的です。市場に出てきた頃には、選考が終わっています。
この4つが重なると、プロフィールから得られる情報にも偏りが生まれます。
デジタル上で見えやすいのは、大学名や所属といったラベルです。
本人が経験を言語化できていなければ、何をやり抜いたかまでは、プロフィールから読み取れません。
つまり、登録されたプロフィールだけを頼りに母集団をつくると、ラベルによる絞り込みに偏りやすくなります。
面接の設計をどれだけ精緻にしても、その手前で出会えていない学生には届きません。
この閉じた生活圏は、採用後にも別の形で表れます。
同質性の高い環境で4年間を過ごした学生が、入社後に「今までの当たり前が通用しない」という衝撃を受ける現象です。
以前の記事では、これをアイデンティティクライシスとして扱いました。
入口で見つけにくいことと、入社後に崩れやすいことは、同じ構造から出ています。
私たちが、大学に足を運んでいる理由
私たちMaenomeryは、GB(グリットバディ)が年間150以上の大学部活動をはじめ、学生団体や研究室にも直接足を運んでいます。年間で約10,000人の学生と接点を持っています。関東大学サッカー連盟と関西大学サッカー連盟には、メインスポンサーとして関わっています。
ここで、正直に書いておきたいことがあります。
足を運んでいるのは、部活や研究室にいる学生が優秀だからではありません。会いに行かないと、会えないからです。
前の章で書いたとおり、没頭している学生ほど、自分から情報を取りに行く時間がありません。だから、こちらから行く。それだけの理由です。所属している組織の種類に価値があると考えているわけではありません。
そして、会った学生を、そのまま企業にご紹介するわけでもありません。
そこからCB(キャリアバディ)が、ペンシルベニア大学のダックワース教授が提唱したグリットスケールを基盤に、GRITを診断します。見ているのは、次の4つです。
- Guts 困難との対峙
- Resilience 復活の再現性
- Initiative 自己決定の履歴
- Tenacity 長期目標への執着
この4つの観点で、まず現在地を把握します。
診断のあとが本番です。平均して3日に1回の面談を重ねながら、本人の挫折と克服のプロセスを一緒に言語化していきます。何が起きて、何を考えて、何を変えたのか。累計50,000件の面談から積み上げた評価項目を使って、掘り下げていきます。
この過程は、見極めであると同時に育成でもあります。学生は自分の4年間を初めて言葉にし、なぜ働くのかを整理していきます。面談を始めてから企業をご紹介するまでに、数ヶ月かかることも珍しくありません。
私たちがご紹介しているのは、「体育会だから」という理由だけで選んだ学生ではありません。会いに行った先で、診断と面談を通じて、一人ひとりの経験や考え方を確かめた学生です。
入口がどこであるかと、選ぶ基準が何であるかは、別の話です。私たちは入口だけを、大学の現場に置いています。
貴社の見極め基準に合わせて、どこをどう掘り下げているのかも含めてご説明できます。関心があれば、お気軽にご相談ください。
まとめ:ラベルは基準ではない
この記事で書いてきたことを、4つに整理します。
- 企業はラベルで選んでしまう
- 一人ひとりの経験を知るために、言語化の時間を確保する
- 見るべきは所属ではなく、やり続けた事実
- やり抜いている学生ほど、市場に遅れて現れる
ラベルは、会いに行くための手がかりにはなります。ただ、それだけを選ぶ基準にすると、一人ひとりの経験や考え方を見落としてしまいます。 私たちが大学の現場に足を運ぶのも、そこに優秀な人がいるからではなく、そこにいる人には会いに行かないと会えないからです。
貴社が今、採用の入口で使っているラベルは何でしょうか。
そのラベルは、その人が何をやり抜いてきたかを、教えてくれているでしょうか。
学生の経験と可能性に出会う、GRIT就活イベント
Maenomeryは、2,000〜3,000名規模のGRIT学生が集まる「GRIT就活2028 大規模イベント」の開催を予定しています。
参加学生データはこちら(GRIT就活イベントに参加した学生約1,200名のアンケートデータ)
大学名や所属だけでは見えない、その人が何に向き合い、何をやり抜いてきたのか。
企業と学生が直接対話し、一人ひとりの経験や可能性に触れる機会をつくります。
ラベルにとらわれない採用の入口として、GRIT就活イベントを活用してみませんか。
出展やイベントの詳細については、Maenomeryまでお気軽にお問い合わせください。
引用文献
束原文郎 (2022)「体育会系神話の歴史と現在―コロナ禍にみる変化の兆し」『日本労働研究雑誌』2022年5月号, 48-63.
Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087-1101.
Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 492-511.
厚生労働省 (2025)「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」2025年10月24日公表.
株式会社マイナビ (2024)「2025年卒 企業新卒採用活動調査」2024年3月実施, 有効回答2,192社.